これからの基礎教育の構築
日本基礎教育学会 会長
十文字学園女子大学名誉教授
増田吉史
 

 日本基礎教育学会は、平成5年、当時の著名な教育関係者によって設立された。「実践研究」を柱とし、学校現場の実践と大学研究機関の研究との融合を図ることを目指し、設立された。以来、特に奥田真丈前会長は、終始尽力され、活動をリードされてきた。会員の高齢化に伴い、組織の衰退現象に十分に対処できずに推移してきた時期もあったが、関西支部や多摩支部の活動に支えられ、活動を継続してきた。近年は、会員の所属する大学(特に教職課程設置大学)から、若手の研究者の参加が増え、研究活動も活発化してきた。平成22年3月2日に奥田眞丈氏がご逝去され、23年度より、会長をお引き受けしたが、「実践研究」を柱とする本学会の方向性は揺らぐことなく継続されている。

 本学会の概念規定は、
 (1) 人間力の基礎になる学力や人間形成をめざす教育。
 (2) 小学校就学前後の人間形成の基礎を作る教育。
の2つである。

 これらは、学校現場の実践と大学研究機関の研究との融合による「実践研究」によって明らかになってくる。奥田氏が「一人ひとりの子どもについての人間形成のために、緊密な連携をする。この新しい教育のシステム、仕組み、構造を創り出さなければならない。これが直面している課題である。」と語っておられたとおり、学校現場で実践を通して子供たちの問題に直に対応する会員と、研究機関や大学で研究に取り組んでいる会員とが共通の場で真摯に研鑽を深めることで、目指す教育の形が明らかになってくる。

 例えば、基礎的な事項を確実に身につけさせることと、学ぶ意欲の向上を目指すことは相反する価値観に見られがちだが、今回の学校教育法改訂、教育課程・学習指導要領の改訂において、両方の関係が明快に位置づけられた。両者を結ぶものが「活用」であり、具体的には、思考力、判断力、表現力の育成である。これは、従来ずっと言われてきた「生きる力」の育成をさらに具体的に表現したものであり、本会の目指してきた理念そのものである。教育改革やその充実を具体的に実現するためには、学校教育の基盤整備が不可欠であり、義務教育の基礎をしっかりと保証し、義務教育の質の向上のための構造改革を進めていく必要がある。このために、子供の発達や学年の段階には個人差はあるものの、小学校就学前後の教育のあり方は重要な研究課題である。本学会だからこそ可能となる学校教育の改革と充実のための方策提言をこれからも積極的に行っていく。

 日本基礎教育学会は、このような長年にわたる学会の研究活動を評価いただき、日本学術会議より、令和3年4月22日付で、日本学術会議協力学術研究団体に指定いただいた。名誉なことである。今後とも学会の活動の充実を図り、基礎教育のあり方について、研鑽を積み、研究成果を発信していく。



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