2007日本基礎教育学会紀要12号より
日本基礎教育学会この2年間を振り返える
日本基礎教育学会 事務局次長 増田吉史
1 この2年間を振り返る
 この創立総会において奥田眞丈氏(現会長)が語った基礎教育の意義をふまえ、これからの日本基礎教育学会の使命と推進のあり方を考えていく必要がある。
 講演において、奥田氏は「古くからある基礎教育の伝統の上にたち、新しい装いの基礎教育を充実することが、これからの基礎教育学会の大きな使命である」としている。
 「そのアプローチの方法は、今までの日本の基礎教育は、学会が細分化されてしまい、それぞれの学会が細かいことをやってきたが、日本基礎教育学会は、もっと大きな視点にたって考える学会にすべきである」としている。
 「学校教育における3Rs(言語と数に関する教育)も、普通教育あるいは一般教育というも基礎教育であるし、そもそも義務教育の段階が基礎教育(小学校に対しては幼稚園が、中学校に対しては小学校が基礎教育)である。この中で、新しい教育理念としての「生涯学習」を明らかにし、実践的にアプローチする」ことを強調している。
 さらに期待される研究分野として具体的例を示している。この2年間(平成17・18年度)の本学会の活動の一部をこれに当てはめ、若干の検証をし、これから(特に平成20年度以降)の本学会の研究分野のあり方を展望してみる。
 奥田氏は講演の中で、「では、どういう方向で考えるか」とし、いくつかの具体的な方向を示している。
(1) 創立総会講演のキーワード1
 「新しい発想の転換をして創造することが強く求められている。教育は実践あるのみ。これから残された課題として基礎教育を、各校種別毎に実践的に明確にしていくこと」としている。これにかかわっては次の提案があった。
「子どもたちの考えを自由遊びを通して伸ばすには」 宇喜田幼稚園 伊藤昌子氏、菅谷和美氏、脇谷友香氏(平成17年9月)
「国民の歴史 聖徳太子についての道徳授業」 楠元尾氏(平成17年11月)
「教育課題の現状と課題・教育現場のニーズに応える大学教育」 山形大学地域教 育文化部 鈴木渉氏(平成17年9月)
「学力と評価」 京都女子大学 北尾倫彦 氏(平成17年8月)
「小学校における教科担任制の実践」 足立区立弘道小学校 上原悟氏(平成18年9月)
「教育再生会議の内幕」 共同通信記者 名古屋氏(平成19年6月)
(2) 創立総会講演のキーワード2
 「幼・小(低・中・高)子どもたちの発達段階に即応しながら基礎教育の内容・方法を学校教育だけで考えるのではなく、生涯学習体系の中で、家庭、社会教育と分担し、緊密な連携をする新しい教育のシステム、仕組み、構造を創り出す」としている。これにかかわっては次の提案があった。
「教育改革の動向と課題」 玉川大学講師 中沢敬氏(平成17年5月)
「伝え合う力の育成・国語科の授業を通して」 八王子市立松が谷小学校 佐倉英明氏(平成16年2月)
「学校を中心とした食育」 杉並区立杉並 第六小学校 鈴木清子氏(平成16年2月)
「中学校美術科における鑑賞指導・ラスメニーナスの不思議」 大阪市立大淀中学校学校 村部京子氏(平成17年12月)
「にしみたか学園(小中一貫校)の設立の経過と現状」 三鷹市立井口小学校 高橋京子氏(平成18年11月)
(3) 創立総会講演のキーワード3
 「基礎教育(学力)の場合には、体験学習が重視される。教材観、学習材、学習活動の在り方が新しい発想に基づいて研究開発されなければならない」としている。これにかかわっては次の提案があった。
「民間企業の経験を生かし、学力向上に取り組んだ三年間」 三鷹市立北野小学校 大座畑真弓氏(平成17年10月)
「国語科における習熟度別学習・どの子にも確かな学力をつけることを目指して」大阪市立九条南小学校 岡本佳子氏(平成17年6月)
「国語科における基礎学力と課題解決学習のあり方」 大阪市立北中道小学校 井上博之氏(平成17年6月)
「生きる力をはぐくむ学習活動のあり方を追究する・(体育科)」大阪市立味原小学校 北埜恵一氏(平成17年2月)
「すすんで課題を解決する子どもを育てる(算数科)」 大阪市立高津小学校 中村至宏氏(平成17年2月)
「文章表現力を高める国語科の指導法(国語科)」 大阪市立深江小学校 遠藤徹氏
(平成17年2月)
「共に学び合い共に高め合う算数の授業目指して」 江東区立八名川小学校 峯岸里美氏、東本芳美氏(平成18年6月)
(4) 創立総会講演のキーワード4
 「基礎教育の研究に当たっては、特にその教材研究は、現場の第一線に近い密接な問題である。教材研究、あるいは学習材の研究、学習活動の在り方の研究、特に今日言われてるメディアをどのように教育の中に活用していくか、研究開発がた大きな課題であり、これらは、人間理解の在り方について、新しい研究のスタートをしてもらいたい」としている。これにかかわっては次の提案があった。
「児童理解における教師自身の自己理解について」 東京女子体育大学 久芳美恵子氏(平成17年6月)
「保健室から見た子どもの状況と養護教諭の役割」 文京区立窪町小学校 原洋子氏(平成18年1月)
「地上デジタル放送の学校教育への利用」 港区立神応小学校 井上文敏氏、杉原紀子氏(平成18年2月)
「環境教育のその後の実践について」 練馬区立高松小学校 石川直彦氏(平成18年10月)
「健康教育」 葛飾区立上平井小学校 渋谷英一氏(平成19年2月)
2 これからの事務局体制について
 これらを含め、時代の変化に対応した日本基礎教育学会の事務局体制強化をする必要がある。日本基礎教育学会開始から14年が経過した今日、今後の10年を見据え、これからの日本基礎教育学会の事務局体制のあり方を考えたい。
(1) 平成18年度までの現状分析
 日本の社会全体では少子高齢化が話題になっている。この問題の根幹は、世界一となった高齢者人口をさえる壮年若年層の人口の薄さである。つまり日本社会を支えきれるかという大きな不安である。
 このことは現在、多くの研究会や学会にとっても同様である。今まで活躍し会の運営を支えてきた層の高齢化と、それを支える次世代の層の薄さである。このことにいち早く気付き対策をとっている会はいいが、多くの会は手を打たずに今日を迎えているように思える。
 日本基礎教育学会では、この現象が他の会よりいち早く訪れている。現在の本会の運営は一部の会員に依拠している。しかし、本会にとっては若年層に当たるこれら本会の運営に献身的に貢献してきた会員も、間もなく現職退職および高齢化を迎えようとしている。
 この現状を一刻でも放置することは、そのまま日本基礎教育学会の衰退を意味する。中でも事務局体制の弱体は、ただちに本会の消滅につながるので、油断は許されない。
(2) 高まる日本基礎教育学会の役割
 一方で、これからこそが基礎教育のニーズが高まる時代だと言える。幼児教育と小学校教育の在り方が注目される中で、幼小それぞれの分野で研究を重ね、幼児教育と小学校の在り方について提言し続ける必要がある。また教員養成大学院、現職教員の大学院派遣等も進み、教育現場からの学術的な研究の存在意義を提案する本会の特徴は、今後ますます注目されるものと考える。
 これからの日本の教育のあり方、「基礎教育」の重要性を考え、維持・継続できる体制に大胆に移行したい。
(3) 組織及び運営の現代化に向けて
 本学会の特徴は研究者だけでなく、教育現場の実践者とが共働しているところにある。その特徴を生かした組織と運営体制にしていく必要がある。また今後、若い世代に魅力を感じてもらえるように、実働が期待できる事務局体制を構成することが求められる。
(4) 支部体制の確立
 支部を増やし、支部の研究体制の充実を推進する。研究の理論をリードする大学関係者の核と、学校現場の実践との融合を目指し、本学会の魅力をアピールしていく必要がある。
 たとえば、「幼児教育」と「小学校教育」では、口先やポーズでなく、根底にある問題点を分析し、それぞれが研究を高め、その上でもともとある二本柱を新しい視点で構想する必要がある。
 小学校の現状は、現在、大きく教育改革が進んでいるが、それは人事・組織・教育課題対策に傾いている。一方、教員養成大学院、現職教員の大学院派遣等も進み、枠組み自体が変化している。その中で本学会の提言はますます重要になる。
(5) その他の重要課題
会費の確実な納入
月例会会場の確保
例会の発表者の確保
事務局体制の強化、役割分担制
事務局の構造改革
規約改正
「紀要」の充実
各道府県(地方)で一人で活躍している会員には支部ができるように活躍していただけるとありがたい。
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